漢方学会・研究会での発表論文
漢方太陽堂が、東洋医学関係の学会・研究会にて発表報告した論文です。ご覧下さい。
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【後縦靱帯骨化症】
2004年11月伝統漢方研究会第1回全国大会基調講演(日本・兵庫県淡路夢舞台国際会議場)
木下順一朗(福岡伝漢研)
[諸言]
後縦靭帯骨化症ossification_of_posterior_longitudinal_ligament(OPLL)による神経根の圧迫のため引き起こされた神経障害で苦しむ患者さんが非常に多いです。後縦靭帯骨化症の原因は様々な原因が報告・推測されています。2002年11月に南京国際中医薬論壇で発表した「後縦靱帯骨化症(OPLL)に対する漢方治療の効果」以降、幾つかの知見を得たので報告する。
【例】
例1:50歳、男性、164cm、59kg
主訴:頚椎後縦靭帯骨化症にて第3,4頚椎の骨化が著しく、通常の約50パーセントまで狭窄している。
首、肩に痛みがあり、肩を動かすと痛みが増すそうである。他に手足にも痺れと痛みを訴えられる。箸が使いにくく、足がもつれることがあり、膝から足指先へかけて感覚が鈍くなる事もあるそうである。
既往歴:1998年、痔疾
2001年~2004年、胃ポリープ、現在、網膜症
現病歴:1999年10月指先の痺れがあり、市民病院で頚椎後縦靭帯骨化症と診断される。以降、半年あるいは1年に1回、定期的に診てもらい、必要に応じレントゲンを撮ってもらったり、カルナクリン錠25、メチコバール錠500μgなどの投薬を受けている。
治療経過:2004年9月8日糸練功にて調べる。
大腸の腑陽証に厚朴の証1合3+
膀胱の腑陽証に龍骨牡蛎の証0.5合2+
膀胱の経絡陽証に経筋の症1合3+
胃の腑陽証1.5合3+に骨化周辺の頚椎症と思われる異常
膀胱の腑陽証2.5合4+に骨化症と思われる部分を確認
更に神経の鈍麻・麻痺と思われる証が心の臓陰証2.8合3+に診られる。
大腸の腑厚朴の証にスクアレン(100mg)2P、分1夕食後。膀胱の腑龍骨牡蛎の証にヴァイタルゲン2T分1夕食後。膀胱の経絡経筋の証に竜仙1H合牡蠣仙1H、分1朝食前。胃の腑頚椎症と思われる異常に本来は麻黄加朮湯証であるが、患者さんの服用の負担を減らすために先の竜仙1H合牡蠣仙1Hにて代用する。
膀胱の腑骨化症と思われる部分に竜仙1H合越婢加朮湯1.7g、分1夕食前。心の臓陰証神経麻痺に加味八仙湯1/3量、分1就寝前。を選薬する。
2004年10月1日糸練功の結果は以下の通りに変化する。
大腸の腑陽証2.5合2+
膀胱の腑陽証2合3+
膀胱経絡病陽証2合2+
胃の腑陽証2.8合2+
膀胱の腑陽証3合2+
心の臓陰証2.8合3+
症状の変化は、手足の痺れと痛みに関しては自覚症状の変化は無い。手すりを握り締めたり、立ち上がる時に特に痛みがあるとのこと。
首、肩に関しては痛みがかなり楽になったとのこと。首、肩の痛みが軽くなったので、上半身が軽くなった様に感じ、以前よりは楽に日々が過ごせるとのこと。また、体の中心がしっかりしたような感じを受けると言われる。箸の使いにくさとか、足のもつれも無くなり、発汗は正常に戻り、寝汗もかかなくなった。便通も正常になった。
【考察】
2002年11月に発表した「後縦靱帯骨化症(OPLL)に対する漢方治療の効果」以降、幾つかの治療点と思える知見を得た。
後縦靱帯骨化症の患者さんには自律神経の異常と思える知覚神経障害が多く見受けられるように感じる。後縦靱帯骨化症の患者さんの五志の憂(東洋医学的見方の精神的状態)を調べると2箇所の異常が検出される。
1箇所は膀胱の腑であり、もう1箇所は大腸の腑に異常が検出される。膀胱の腑は竜骨牡蠣証であり、大腸の腑は厚朴証である。
骨化症の原因として既にカルシウムの代謝異常が考えられるとの報告もある。竜骨牡蠣はミネラルであり後縦靱帯骨化症の原因としてカルシウムだけでなく、カルシウムを含めた生体内ミネラルの何らかの異常が関係していると推測される。
また糸練功で調べると、全ての患者さんに骨化付近に頚椎症や頚椎ヘルニアと思われる異常が観られる。患者さんの方から骨化以外に頚椎ヘルニア等の異常が有る事を言われる場合も多い。
その他、骨化症から来る標治部だと思われるが、骨化付近に経筋の症と芍薬甘草湯証を呈する患者さんが多い。
以上の治療点の他に今回骨化症による麻痺の改善に成功した。例1の「箸の使いにくさ」、「足のもつれ」、「便通の異常」はいづれも骨化症による麻痺の症状だと思われる。例1は加味八仙湯を使用することにより上記麻痺症状が消失した。
【結語】
後縦靱帯骨化症は東洋医学的には複雑な病態が重なっており、漢薬の選薬にも非常に煩雑で難しい面がある。骨化症の進行により麻痺が進行することを考えれば加味八仙湯の存在は非常に大きいものだと考える。