漢方学会・研究会での発表論文
漢方太陽堂が、東洋医学関係の学会・研究会にて発表報告した論文です。ご覧下さい。
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【 間中四分画 】
2007年11月 伝統漢方研究会第4回全国大会(日本・有馬向陽閣)
木下 順一朗
福岡県 福岡市・日本
[諸言]
18年前、故入江正先生より現在の治療法が完全であるかどうか、最終確認として間中四分画診断を用いるよう教わった。
間中四分画診断により狙った治療点に対する治療法が完全であるかどうか判断できるのであれば、現在の選択した治療法の不足・有余部分を探し、より完成した治療法を完成させる可能性があると考えられる。
【対象と方法】
間中四分画診断と腹診を用い、治療法の不足或いは有余点を探す。間中善雄先生が考案された四分画診断とは臍を中心とし帯脈と任脉で腹部を四分画する。身体に異常があると、四分画の上下・左右いづれかでFT・糸練功でST、オーリングテストでオープンとなる現象。
治療法が完全であり、身体の経気が流通し臓腑が正常となると、その治療点の合数で全ての四分画はFT・糸練功でsm、オーリングテストでクローズとなる。
【例1】35歳、女性
【主訴】不妊症、冷え性
【既往症】花粉症、アトピー性皮膚炎
【現病歴】婦人科へ不妊治療に通い始めて1年半。排卵誘発剤クロミッドによるタイミング法を1年行う。その後、MHG、HCG注射による排卵誘発に加え人工授精を3回試みたが妊娠せず。
現在の服用薬は、生理5日目から5日間クロミッドを服用。MHG注射3回、HCG注射1回。
【現症】身長163cm、体重52kg。口渇なし。二便正常。寝汗あり。手足や腰に冷えを感じ(特に足先がひどい)腰痛もある。
婦人科治療以前は生理不順で、生理と生理の中間の時期に不正出血などもあった。現在は排卵誘発剤を服用しているためか生理周期も安定し不正出血もない。
冷え性改善のために養命酒、あとは葉酸のサプリメントも飲んでいる。
【治療法決定】
四診と糸練功にて当帰芍薬散証と推測した。-0.1合Ⅴ胆の腑陰証。
当帰芍薬散の薬方サンプルを患者の手掌に載せる。手掌診・百会診・不妊症の反応穴・血海(衝脈)を糸練功にてsmであることを確認。これはFTでsm、オーリングテストではクローズとなることを意味している。
その後、最終確認として四分画診断を行う。当初四分角は右図の状態だった。手掌に当帰芍薬散を載せると四分画の外周部分に陰が強く、陽が弱くSTを確認(右図下)。当帰芍薬散の治療では完全ではなかった事が示される。
腹診にて当帰芍薬散による治療で不足又は有余の影響が出ている臓腑を確認。木下順一朗腹診図のダン中心包にstを確認。心包部分の補瀉は手掌(陰面)センサーにてst。心包部分は陽証である。
ここまでの四分画診断の結果と心包の陽証から考えられることは、
仮定①当帰芍薬散にて心包を補い過ぎた。
仮定②当帰芍薬散 + 心包の瀉剤が適方。
以上、2点となる
仮定①の場合、当帰芍薬散(当帰、芍薬、川芎、茯苓、白朮、沢瀉)の中で、心包に影響を与えかつ補う薬味は川芎のみである。当帰芍薬散去川芎では当帰芍薬散の方意が崩れる。減方にて当帰芍薬散減川芎が適方と考えられる。
仮定②の場合、当帰芍薬散の加方にて心包を瀉する薬味は黄芩が代表的薬味である。当帰芍薬散加黄芩が適方と推測される。仮定①或いは仮定②のそれぞれの当帰芍薬散加減方を患者の手掌に載せ、四分角診断にて確認を行う。
仮定②の当帰芍薬散加黄芩で四分角の全てがsmとなる。この不妊症患者さんへの適方は当帰芍薬散加黄芩だと決定できる。重要なことは、四分角での残存stは加方のみでなく、減方の可能性も疑うことである。
【例2】55歳、女性
【主訴】膠原病、頚椎症、胸椎圧迫骨折
【既往症】特記すべき事なし
【現病歴】膠原病は、35歳のころ発病。45歳頃までは普通の生活が出来ていたが少しずつ進行。特に昨年から急激に進行し現在に至る。
もともとは膠原病(強皮症)による筋肉の硬直があった。治療薬のステロイドによる副作用で骨粗鬆症となり胸椎9,10,11,12番を圧迫骨折。
【現症】身長155cm、体重55kg。血圧120/70mmHg。手足のみ冷えあり。口渇はあるが小便は少ない。やや便秘がち。動悸があり向精神薬を服用中。
また頚椎1番の異常により手足のしびれ。横隔膜あたりの筋肉の締め付け、蛇に締め付けられているようだとのこと。圧迫骨折により背が丸くなり、肺が酸素不足となり酸素吸入の生活。地獄のような苦しみだと訴えられる。
【治療法決定】
頚椎1番部分にて合数を決定する。0.6合。経別脉診にて胃の腑の陽証と判断。四診の情報と合わせ麻杏ヨク甘湯証と推測する。手掌に麻杏ヨク甘湯の薬方サンプルを載せ、四分角診断を行う。右図から右図上から2番目へ変化。四分画のB,D部分にstが残る。完全な麻杏ヨク甘湯証でなかったことが示される。
腹診に麻杏薏甘湯で不足又は有余の影響が出ている臓腑を調べる。右三焦と胃の腑にstが残っており(右図上から2番目)、それが陽証であることを確認。麻杏ヨク甘湯は元来胃の腑にも影響する瀉剤である。
この例でも二種の仮定が出来る。
仮定①麻杏薏甘湯中の甘草で補い過ぎたのか。
または
仮定②麻杏薏甘湯だけでは胃の瀉剤として不足なのか。
麻黄は発汗剤であり麻杏薏甘湯は発汗剤の傾向がある。胃に配当される石膏を組合すことにより麻杏薏甘湯加石膏は止汗剤となる。
麻杏薏甘湯加石膏を患者の手掌に載せ、四分角診断にて全てsmになることを確認する。この患者さんの頚椎損傷部分は麻杏ヨク甘湯加石膏証だと決定できる。
次に膠原病の証を糸練功にて調べる。0.4合Ⅲ胆の腑陽証に反応あり。小柴胡湯(1/2量)合五苓散(満量)にて四分画診断はsmとなる。漢方の治療法はこれで決定となる。
更に、紙包磁石にて治療のシュミレーションを行う。胆の腑の瀉法を行うと手掌診・腹診などすべてsmとなる。しかし理由は不明だが、四分画診断では僅かにstが残る(右図上から3番目)。小柴胡湯は心包と胆に配当され、五苓散は胃と膀胱に配当される。この患者さんの柴苓湯証は五苓散の割合が多い。よって通常は膀胱が治療点となると思われる。しかし、この患者さんの膠原病治療点は胆の瀉法であった。
以上を鑑み、膀胱を標治部、胆を本治部と考え紙包磁石にて膀胱を瀉してから胆を瀉す(右図上から4番目)と四分画診断は全てsmとなった。
このことは小柴胡湯(胆)と五苓散(膀胱)を合方する治療法の漢方では問題とならないが、針治療では胆の瀉法だけでは改善が見られないことを示唆している。膀胱を軽く短く瀉し、同時に或いは多少時間をずらし、胆を深く長く瀉す治療法が考えられる。
【考察】
人間の感覚は時に鋭く、時に好い加減である。間中四分画診断を使わない限り、治療法の最終確認は出来ないと考える。また間中四分画診断を使うことにより、新しい湯液加減方や針加減方が見出される可能性がある。これは入江先生が針の加味方と言われていた事の一部かもしれない。
以下に、現在確認されている加減方にて常用する薬味の配当と、腹診にて強くでる臓腑とを記する。
今後、他の薬味や補助剤なども検討していかなければならない。
腹診に強く反応する常用加減薬味
配当とは異なるので注意を要する。瀉剤 補剤 平剤
腹診部 | 薬味名 | 配当臓腑 | 中医学上の帰経 |
肝 | 川芎 | 心・肝 | 肝・胆・心 |
肝 | 当帰 | 肝 | 肝・心・脾 |
胆 | 柴胡 | 胆 | 胆・肝・心包・三焦 |
心 | 茵蔯 | 胆 | 膀胱 |
心 | 黄連 | 心 | 心・肝・胆・胃・大腸・脾 |
心 | 桔梗 | 小腸 | 肺 |
心 | 車前子 | 心 | 肝・腎・小腸 |
心 | 桂枝甘草 | 三焦 | |
心 | 茯苓 | 心 | 心・脾・胃・肺・腎 |
心 | 桂枝 | 心 | 肺・肝・腎・膀胱・心 |
心 | 白芍薬 | 脾 | 肝・脾・肺 |
心 | 川芎 | 心・肝 | 肝・胆・心 |
心 | 白芷 | 心 | 肺・胃・大腸 |
心 | 麻黄 | 大腸・心 | 肺・膀胱 |
心包 | 黄芩 | 心包・大腸 | 心包・心・肺・肝・胆・大腸 |
三焦 | 大黄 | 三焦・胃 | 三焦・肝・心包・脾・胃・大腸 |
脾 | 連翹 | 胃 | 心・胆・三焦・大腸 |
脾 | 黄耆 | 脾・肺 | 脾・肺 |
脾 | 膠飴 | 脾 | 脾・肺 |
脾 | 白人参 | 脾・肺 | 脾・肺 |
脾 | 白朮 | 脾 | 胃・脾 |
胃 | 紅花 | 腎 | 心・肺 |
胃 | 石膏 | 胃 | 胃・肺・三焦 |
胃 | 大黄 | 三焦・胃 | 三焦・肝・心包・脾・胃・大腸 |
胃 | 半夏 | 胃 | 胃・脾・肺 |
胃 | 薏苡仁 | 心包・大腸 | 肺・膀胱 |
胃 | 防已 | 腎・胃 | 膀胱・小腸 |
肺 | 黄耆 | 脾・肺 | 脾・肺 |
大腸 | 麻黄 | 大腸・心 | 肺・膀胱 |
腎 | 土鼈甲 | 腎 | 肝・肺・脾 |
腎 | 白芍薬 | 脾 | 肝・脾・肺 |
膀胱 | 葛根 | 肺 | 肺・脾 |
膀胱 | 牡蠣 | 心 | 腎・肝・胆 |
膀胱 | 蒼朮 | 脾・腎 | 胃・脾 |
【結語】
FTや糸練功におけるst、smは比較でありsmの程度には差がある。そのため四分画診断は最終確認として必要となる。
間中四分画診断は、治療法が完全でない限り全てsmとはならない。
また四分画は、証が同じでも患者さんにより変化する。例えば被験者の手掌に大黄を載せると、被験者の腹診は右図のようになる。しかし、その状態で四分角診断をすると、被験者によって異なった四分画を示す。
このことから推測しても、四分画は更に研究されることにより、新しい治療法が見つかる可能性を秘めている。
【文献】
(1)入江正、臨床東洋医学原論、入江正、130頁、1990