漢方学会・研究会での発表論文

漢方太陽堂が、東洋医学関係の学会・研究会にて発表報告した論文です。ご覧下さい。
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【妊娠】

2004年11月伝統漢方研究会第1回全国大会(日本・兵庫県淡路夢舞台国際会議場)

木下順一朗
福岡県福岡市・日本

[諸言]

子供を希望し、通常の性生活を送りながら2年以上経過しても妊娠しない夫婦が、不妊症と診断される。

近年、女性の社会進出が進む中で晩婚化や出産の高年齢化により不妊症に悩む方が増えている。そんな中で人工授精や体外受精などの治療、ホルモン剤による治療を受けても妊娠に至らない方、ホルモン、基礎体温上は何の問題もない方の不妊が増えているのが現状である。

今回、不妊患者3例に対して当帰散を投与し、著効を得たので報告する。

例1:33歳、女性、164cm、41㎏

主訴:不妊症。現在治療はしていないが不妊歴は8年弱になる。切羽詰った思いではないがやはり1日も早く赤ちゃんを抱きたいと思っている。
既往歴:慢性食道炎と逆流性食道炎
現病歴:2度の子宮外妊娠。1度目で左卵管・卵巣一部切除。
1999年5月から2001年10月まで5回の体外受精をした。2回目で陽性反応出るが科学的流産。
2000年12月子宮外妊娠で左卵管・卵巣一部切除。
2002年9月2回目の子宮外妊娠。卵管・卵巣共に無事。両方とも自然妊娠。
その後、時々左に卵巣脳腫ができるようになったが去年10月頃より再発してないと思われる。
現在は他の薬局で不妊の為の漢方(半夏・麦門冬・当帰・川弓・芍薬・人参・桂皮・牡丹皮・甘草・呉茱萸・阿膠)を飲んでいるが一向に効果が表れない。
現症:身長164cm、体重41㎏、血圧100/60mmHg、顏色貧血色、冷え性(手足のみ)、寝汗あり、睡眠一度覚めると眠れない、生理順調、生理痛ほとんどなし、生理周期不明、生理期間8日
治療経過:初回糸練功で調べたところ、
不妊症:臓腑病、胆腑、陽証、0.5合、5+

不妊症に対して当帰散(散剤、5g)を1日2回投与。
竜仙(1包)合スクアレン(2P)を1日1回投与。

1ヵ月後

糸練功で調べたところ、
不妊症:2.5合、2+
不妊の方がこれといって身体に変化はない様子。ただ、生理前に頭痛・肩凝り・倦怠感がすごくあった。体温が安定しないのが何ヶ月も続いている。今年に入ってから排卵したと思われても体温が上がらず高温期も高くなく続いている。排卵も遅れているようだ。

3ヵ月後

妊娠反応あり。胎嚢と小さな胎児を確認。漢方を飲み始めてまだそんなにたっていないのにとお喜びのご様子。前回、前々回と子宮外妊娠をしているのでとても心配してらしたが無事に子宮にいてくれたとのこと。流産を心配されている。
糸練功で調べたところ、4合、2+
と流産の気がある。

竜仙スクアレンは中止して流産防止に対して当帰散のみを1日2回投与。
8ヵ月後、妊娠5ヶ月目で順調な様子である。

例2:32歳、女性、160cm、50㎏

主訴:不妊症、高プロラクチン、抗核抗体
既往歴:特記すべきことなし。
現病歴:特記すべきことなし。
現症:160cm、50kg
治療経過:初回糸練功で調べたところ、
不妊症:臓腑病、胆腑、陰証、2合、4+
高プロラクチン血症:臓腑病、大腸腑、陽証、2.5合、4+
不妊症に対して当帰散(4g)を1日2回投与。
高プロラクチン血症に対して芍薬甘草湯合桂枝茯苓丸(1.5g、2.5g)を1日2回投与。

1週間後

乳汁が出るとのこと。糸練功で調べたところ、瞑眩と思われる。

2ヵ月後

糸練功で調べたところ、
不妊症:3.5合、1+
高プロラクチン血症:4合、1+

4ヵ月後

糸練功で調べたところ、
不妊症:6合、+(2)
高プロラクチン血症:7合、+(2)

7ヵ月後

体外受精で妊娠。糸練功で調べたところ、
5合、1+と流産の気がある。
流産防止に対して当帰散(5g)を1日3回投与。

例3:40歳、女性、170cm、50kg

主訴:不妊症
既往歴:胃内停水
現病歴:第一子を漢方太陽堂の不妊治療で妊娠。その後、他県に転居され他の薬局で不妊治療をされていたが5年間妊娠せず。
現症:歯切り痕あり、スポーツが趣味でスポーツドリンクを多飲。
治療経過:初回糸練功で調べたところ、
不妊症:臓腑病、胆腑、陰証、5.5合、2+
胃内停水:臓腑病、脾腑、陰証、2合、2+
不妊症に対して当帰散(3g)を1日2回投与。スクアレン(4P)を1日2回投与。
胃内停水に対して二陳湯(5g)を1日2回投与。

2ヵ月後

糸練功で調べたところ、
不妊症:5.5合、+(3)
胃内停水:7合、+(3)

4ヵ月後

糸練功で調べたところ、
不妊症:9合、±(1)
胃内停水:9合、±(1)

6ヵ月後

糸練功で調べたところ、
不妊症:9.5合、±(1)
胃内停水:10合、±(1)
不妊症に対して当帰散(1.5g)を1日1回投与。スクアレン(2P)を1日1回投与。
胃内停水に対して二陳湯(4g)を1日1回投与。

11ヵ月後

妊娠反応あり。糸練功で調べたところ、5合、2+と流産の気がある。
流産防止に対して当帰散(4g)を1日3回投与。

19ヵ月後

無事元気な男の子を出産。

[結果・考察]

呈示した3例のうち、1例目は、抗核抗体の問題、基礎体温上の問題、ホルモンの問題もなかったが当帰散で妊娠した例である。2例目は、抗核抗体の問題がある方が当帰散で妊娠された方の例である。3例目は、胃内停水という本治的な不妊原因(二陳湯証)がベースにある方に、当帰散をお出ししたら妊娠された方の例である。他にも漢方太陽堂では当帰散により高温期が安定され基礎体温表がきれいに2層に分かれた方がいらっしゃった。
また、金匱要略では、以下のような記載がある。
当帰散の方:婦人妊娠、常に服するに宜し。当帰散之を主る。
当帰芍薬散の方:婦人懐娠、腹中キュウ通するは、当帰芍薬散之を主る。
当帰散は本来、妊娠時は常に服用するといいとされており、当帰芍薬散は妊娠時に腹中が急にひきつれるように痛い時に服用するといいとされている。
これらのことから、漢方太陽堂では妊娠時の流産防止には当帰散の適用が望ましいと考えている。これらのことから、当帰散は抗核抗体のほかにも黄体ホルモンの正常化にも関与しているものと思われる。今後、当帰散がどのような証の患者に有効かを検討していく必要がある。

【文献】

大塚敬節、金匱要略講話、496頁、502頁、1979年