漢方学会・研究会での発表論文
漢方太陽堂が、東洋医学関係の学会・研究会にて発表報告した論文です。ご覧下さい。
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2014年11月 伝統漢方研究会第11回全国大会(日本・名古屋東急ホテル)
薬味に対応する経穴を使った治療の試み
小西 和彦
福岡県 福岡市・日本
【はじめに】
昨年は「漢方薬の証に対する鍼灸治療の試み」として、糸練功を使って薬味の作用に対応した経穴を見付け、その経穴を組み合わせる事で漢方薬の証に対しての治療の試みを行いました。
今回は薬味の作用に対応した経穴に金粒、銀粒を貼る事で改善効果を高める試みを行いました。
【薬味の作用に対応する経穴の探し方】
昨年の論文と重複しますが薬味の作用に対応する経穴の探し方を説明します。
まず被験者の百会で糸練功を行い0合付近からマイナスにかけてSTが無い事を確認します。
次に被験者の掌に特定の薬味を載せます。この時、被験者の身体は太極に有余を与える病的状態となり、その薬味に対するSTが0合付近からマイナスにかけて出現します。
この時に被験者の身体が載せる薬味を欲している状態にあると、薬味が治療の方向に作用してしまい病的状態が作り出せない為注意が必要です。
百会に現れたSTと同じ合数で、四肢に出現するSTのポイント(反応点)を探します。この時に出現したSTの反応点が、被験者に載せた薬味に対応する経穴と考えられます。最後に薬味を掌から外した時に反応点のSTも消失する事を確認します。
この手法を使い昨年論文を書いた時点では6つの作用に対する経穴を確認しています。
気血水の作用 | 被験者に載せる薬味 | 対応する経穴 |
気の発散 | 桂枝、青皮、羌活 | 列缺(肺経)、経渠(肺経) |
気虚 | 人参、黄耆 | 尺沢(肺経) |
気塊 | 厚朴、枳実、香附子 | 少海(心経) |
水毒(胃内停水) | 白朮、茯苓 | 神門(心経)復溜(腎経) |
血虚(陰の瘀血) | 当帰、川芎 | 太衝(肝経) |
瘀血 | 牡丹皮、桃仁 | 太白(脾経) |
その後平成25年12月の全国大会の発表時点では更に幾つかの反応点を確認しています。
【西洋薬を使った反応点の確認】
今回は利胆作用、止痛作用に対応する経穴を新たに探すにあたり、前回までは薬味を実際に被験者の手掌に載せる事で反応点を探していましたが、今回は見付けた反応点に対して更に西洋薬を確認として使う事で精度を高める試みを行いました。
〇利胆作用のある薬味を被験者の掌に載せた時に出現する反応穴は下記の結果になりました。
上巨虚(左胃経) | 手三里(右大腸経) | 大陵上6寸(左心包経) | 労宮(左右心包経) | |
茵蔯 | ○ | ○ | × | × |
黄連 | ○ | ○ | × | × |
山査子 | ○ | ○ | × | × |
竜胆 | ○ | ○ | × | × |
山梔子 | ○ | ○ | ○ | ○ |
宇金 | ○ | × | ○ | × |
上巨虚穴は6種類全ての薬味でSTの反応が現れました。手三里穴は茵蔯、黄連、山査子、竜胆でSTの反応、大陵穴上6寸では山梔子、宇金でSTの反応、労宮穴では山梔子のみ被験者の手掌に載せた時にSTが現れました。
次に利胆薬であるウルソ、ガロール、利胆作用のあるデヒドロコール酸をイメージしたところ4ヶ所の反応穴のうち上巨虚、大陵穴上6寸、労宮には同様のSTが現れたが手三里に対してはSTが現れませんでした。
このことから手三里穴は、利胆作用とはまた違った茵蔯、黄連、山査子、竜胆に共通した作用に対応する経穴と考えられ、また労宮穴は山梔子でしか反応しませんでしたが他の薬味には無い山梔子特有の利胆作用に対して反応しているのではないかと推測することが出来ます。
止痛作用のある複数の薬味を使うことで反応穴を探し、足三里(胃経)郄門穴(心包経)合谷穴(大腸経)に対して反応穴を確認しました。
足三里(胃経) | 郄門(心包経) | 合谷(大腸経) | |
延胡索 | ○ | ○ | × |
縮砂 | ○ | ○ | × |
木通 | ○ | ○ | ○ |
炮附子 | ○ | ○ | ○ |
加工附子 | ○ | ○ | × |
防風 | ○ | ○ | × |
羗活 | ○ | ○ | ○ |
白芷 | ○ | ○ | ○ |
威霊仙 | ○ | ○ | × |
牛膝 | ○ | ○ | × |
木香 | × | ○ | ○ |
次に足三里穴、郄門穴、合谷穴に対してボルタレン(鎮痛、消炎作用)、インドメタシン(鎮痛、消炎作用)モルヒネ(鎮痛作用)リゾチーム(消炎作用)で確認したところ右足三里穴は鎮痛作用で共通するボルタレン、インドメタシン、モルヒネでSTの反応が現れ、左足三里穴は消炎作用で共通するボルタレン、インドメタシン、リゾチームでSTの反応が現れました。
このことから右足三里は鎮痛作用を有し、左足三里は消炎作用を有していると考えることが出来ます。郄門穴はモルヒネにのみSTの反応が現れたため、モルヒネ特有の中枢神経系に働くことによる止痛作用と関係していると考えられます。
合谷穴はいずれの西洋薬に対しても反応をしなかったため、止痛作用というよりは大腸経に対する作用により結果的に止痛効果が出ているのではないかと考えられます。
【現時点で薬味の作用に対応すると考えられる経穴一覧】
気に対する作用 | 対応する経穴(経絡) | 薬味 |
気の上衝・発散作用 | 列缺(肺)経渠(肺) | 桂皮、青皮、羌活、陳皮 |
気塊の解消作用 | 少海(心)大陵(心包) | 厚朴、枳実、香附子、陳皮 |
気虚を補う作用 | 尺沢(肺) | 人参、黄耆 |
水に対する作用 | 対応する経穴(経絡) | 薬味 |
胃内停水(上~中焦)の改善 | 神門(心) | 白朮茯苓、蒼朮、半夏、麻黄 |
胃内停水(中~下焦)の改善 | 復溜(腎) | 白朮茯苓、蒼朮 |
表の利水作用 | 三陰交上2寸(脾) | 麻黄、蒼朮、防已 |
潤す作用 | 中封の上9寸(肝)レイ溝(肝)築賓(腎) | 人参、石膏、五味子、麦門冬、熟地黄、栝楼仁 |
利水作用+寒剤 | 豊隆(胃) | 澤瀉 |
胃の清熱作用 | 内関(心包) | 石膏 |
血に対する作用 | 対応する経穴(経絡) | 薬味 |
瘀血全般の改善作用 | 太白(脾) | 牡丹皮、桃仁、赤芍薬、槐花、丹参、紅花、蘇木 |
表の瘀血の改善作用 | 陽谷(小腸) | 紅花、蘇木 |
表~中位の瘀血の改善作用 | 承山(膀胱) | 槐花、丹参、紅花、蘇木 |
陳旧の瘀血の改善作用 | 曲池より更に外1寸(三焦経?)腓骨頭の上際(胆) | 全蝎、裴虫、虻虫、水蛭 |
血虚を補う作用 | 太衝(肝)郄門下1寸(心包)少海下4寸(心) | 当帰、芍薬、川芎、熟地黄 |
血毒全般の清熱作用 | 陽谷上3寸(小腸) | 柴胡、黄芩、黄連、黄柏、決明子、辛夷、葛根、艾葉 |
上焦の血毒の清熱作用 | 郄門下5分(心包) | 決明子、辛夷 |
中焦の血毒の清熱作用 | 四瀆上3寸(三焦) | 柴胡、黄連、黄連黄芩 |
中~下焦の血毒の清熱作用 | 陽輔(胆) | 柴胡、黄連、黄柏 |
表~半表半裏の血毒の清熱作用 | 附陽(膀胱) | 黄芩、黄連黄芩、黄柏、葛根 |
その他の作用 | 対応する経穴(経絡) | 薬味 |
利胆作用 | 上巨虚(胃) | 茵蔯、山査子、竜胆、山梔子、宇金、黄連 |
利胆作用 | 大陵穴上6寸(心包) | 山梔子、宇金 |
利胆作用 | 労宮(心包) | 山梔子 |
抗菌作用 | 腕骨(小腸) | 桔梗、忍冬、露蜂房 |
抗菌作用 | 大陵穴上7寸(心包) | 桔梗、撲ソク、露蜂房 |
抗菌作用 | 条口(胃) | 桔梗、連翹、金銀花、撲ソク、忍冬 |
止痛作用 | 足三里(胃) | 延胡索、縮砂、木通など |
止痛作用 | 郄門(心包) | 延胡索、縮砂、木通など |
排便・瀉下作用 | 偏歴(大腸) | 大黄、麻子仁 |
関門に対する作用 | 陰郄(心包) | 青皮、鶏血藤、降香、大黄 |
甲状腺に対する作用 | 温溜下1寸(大腸) | 厚朴、香附子 |
脾虚を補う作用 | 地五会(胆)飛陽(膀胱) | 膠飴、大棗、小建中湯 |
【治療への応用】
上記の薬味の作用に対応している経穴に対して金粒、銀粒、純チタン粒を貼付して刺激をする事で治療効果を高める事が出来ると考えられます。
糸練功を使い幾つかのメーカーの粒を調べたところ、現時点では瀉の作用としてシルバーマグ、補の作用としてシルバーマグG、補にも瀉にも使える物として純チタン球が一番効果の高い事を確認しています。(いずれも鈴木産業株式会社が製造しています)
虚している瘈厥に対して補の作用 | 実している経穴に対して瀉の作用 | 補瀉関係無く使える |
シルバーマグG | シルバーマグ | 純チタン球 |
例えば乾燥の咳である麦門冬湯証の患者に対して、麦門冬湯証と同じ合数で潤す作用と考えられる反応穴である中封穴上9寸、レイ溝穴、築賓穴の左右いずれかにSTの反応が現れていないか確認します。
同じ合数にSTが現れていることを確認したら、その経穴に対して糸練功で補の刺激が必要(示指で強く反応・シルバーマグGを貼付)が瀉の刺激が必要(中指で強く反応・シルバーマグを貼付)かを確認します。もし補瀉に自信が持てない時は補瀉太極の純チタン球を貼付します。
その後、粒を貼付することで麦門冬湯証に対する合数が改善していることを確認します。また必ず副作用診も行い麦門冬湯証の合数が下がっていないかも確認します。
合数が改善しているなら、経穴への刺激が症状改善方向に作用していると考えられるため、粒の作用時間である5時間程貼付したままにして貰います。
症状によっては、施術者が経穴に印を付けることで1週間程度1日1回5時間程患者さん自身に貼って貰う事も出来ます。 ただし毎日貼っていると段々と反応点の場所が移動する可能性があるために定期的に施術者側が反応穴の一を確認する必要性があります。
同様の手順で例えば痛みが強い場合では足三里穴や郄門穴、オ穴の強い場合は太白穴、陽谷穴、承山穴、浮腫みに対しては神門穴や復溜穴、三陰交上2寸の反応穴を使うことで改善効果を高めることが出来ると考えられます。
この手法を使うことで経穴への刺激自体による改善効果と、経穴を刺激することで経絡の流れを改善し漢方薬の服用効果も高めることが出来るのではないかと思います。