漢方学会・研究会での発表論文

漢方太陽堂が、東洋医学関係の学会・研究会にて発表報告した論文です。ご覧下さい。
※ 本資料の無断複写、流用は著作権法上、禁じられています。転載を希望される場合は、事前に漢方太陽堂にご連絡下さい。本資料は「論文資料」です。

【 気血水配当 】

2010年12月 傷寒論学会 経方臨床運用(中国・海南省中医薬学会 海南省中医院)

木下順一朗
福岡県 福岡市・日本

【緒言】

今回、傷寒論に出てくる繁用薬方と薬味の気毒・血毒・水毒に対する配当を試みたので報告する。日本漢方で言う、気血水理論は、営・衛・気・血・津液理論と少し異なり、臓腑が病むことにより、その結果として気血水の症状が出てきていると捉えられている。症状を気血水に分類したものが、日本の気血水理論である。

【方法】

気血水の判断には、日本に伝わる甲把流の腹診図(図1)を使用した。また、その判定には糸練功の技術を用いた。

【糸練功】

糸練功は、間中善雄先生に師事された鍼灸師入江正先生が筋力Testから考案された診断技術「入江Finger Test」を元に演者木下順一朗が開発した技術である。

1.筋力Testの原理

筋力Testの原理は、大村恵昭著「Oリングの実習」によると、その反応は、「生体の異常な部分は、正常な部分と異なる電磁場を持っている。その部分に軽微な刺激を与えると知覚神経が刺激され脊髄を上昇し中枢神経へ刺激が伝わる。脳からは骨格筋のα-モーターニューロンに刺激が伝わり全身の筋力が変化する。」その反応により筋力Testが可能となる。

2.爪楊枝Test

①爪楊枝を1本用意する
②爪楊枝は木製が判別しやすい
③爪楊枝にサラダ油かオリーブ油などの食用油を少し塗る。
④被験者は手が動かないように、肘を脇につけるか、机の上に固定する。(写真1)
⑤被験者は右手の親指と示指で爪楊枝を挟む。(写真2)

⑥被験者は力を抜いておき、術者の合図で力を入れ、術者は直ぐに爪楊枝を引き抜く。
⑦力比べでは無いので被験者も術者も一定の力を入れるのが要領である。(写真3)
⑧次に被験者の六部定位脈診部である左手の寸(心小腸)に、術者のセンサー(親指と示指の十宣穴)を当て、爪楊枝Testを行い、爪楊枝が簡単に抜けないことを確認する。(写真4)
⑨次に被験者の手に黄連を載せ、同様に爪楊枝Testを行うと、簡単に爪楊枝が抜ける。(写真5)
これは、黄連(苦味)が心に反応し、一時的に筋力が低下したからである。同様に砂糖(甘味)を被験者の手に載せると、脾の脈診部である右手の関(脾胃)で爪楊枝が抜ける。
以下、細辛(辛味)では右手の寸(肺大腸)、塩(鹹味)では左手の尺(腎膀胱)で爪楊枝が抜ける。

3.腕筋力Test

①被験者は片腕を水平に伸ばす。(写真6)
②被験者は力を抜いておき、術者の合図で力を入れ、腕を水平に保とうとする。同時に術者は被験者の腕を下げようとする。(写真7)腕筋力Test3

③正常な状態では力が入り、異常な信号を感じると力が抜ける(今回は煙草を被験者の手掌に載せてTestした)。(写真8)力比べでは無いので被験者も術者も一定の力を入れるのが要領である。この腕筋力Testでも爪楊枝Testと同じ試験が出来、同じ結果が出る。その他、様々な筋力Testがあるが、大村恵昭先生のO-Ring Testなどが有名である。
Omura, Y.(Editorial): New simple early diagnostic methods using Omura’s “Bi-Digital O-Ring Dysfunction Localization Method” and acupuncture organ representation points, and their applications to the “Drug & Food Compatibility Test” for individual organs and to auricular diagnosis of internal organs - Part 1. Acupuncture & Electro-Therapeutics Research,The International Journal, Vol.6: p.239 – 254, 1981
「大村による『バイ・ディジタルオーリングテスト臓器異常診断法』を用いた新しい簡易早期診断法と鍼の臓器代表点、ならびにそれらの身体臓器に対する『薬物適合性試験』と内臓の耳診法への応用(第1報)」

大村恵昭教授がBi-Digital O-Ring Testを発表された論文である。大村恵昭教授の論文の主な内容を下記に記載する。
①2本の指を使う新しい筋力テストの方法を開発したこと。
②鍼灸医学の臓器代表点と結びつけ、早期診断ができるようになったこと。
③O-Ring Testを応用し、薬物を服用する前に薬物の効果を予測することができること。
④主な臓器代表点の位置と鍼灸医学の募穴との関係を図解。
⑤微小な圧刺激でも反応がすること。
⑥電磁場が基礎メカニズムとして重要だと思われること。
⑦大きい直径の知覚神経・脊髄・脳幹が関与していると思われること。
⑧”Phontom Dysfunction Localization Phenomenon”(ファンタム・エフェクト、刺激効果残存現象)があること。

4.糸練功

糸練功は、筋力Testと同じメカニズムであるが、O-Ring Test等の筋力Testと同じ結果が得られるだけでなく、更に正確性が増す。また他の筋力Testでは得られない異常な反応を細かく分析できる進歩した技術である。

糸練功では、利き手の十宣穴をSensorとし、反対の手をTesterとする。

糸練功のTesterは、手首は固定する感じで動かし、入江Finger Testと同じく、親指と示指を軽く摩擦する感じで動かす。
(写真 左⇒中⇒右)

Testerとして感じる部分は親指の示指側の側面と、示指の中指側の側面である。(写真14)
正常な場合は、この部分が滑らかに滑る。(Smooth)
異常な信号を捕らえると、この部分の滑りが悪くなり粘る。(Stick)

【甲把流腹診図の使用方法】

糸練功を用い、傷寒論重要薬方と薬味の気血水の反応を調べた。甲把流の腹診図(図1)に於いて使用した腹診部位は、気虚塊、気塊、血虚塊、血塊(上)、血塊(中)、血塊(下)、痰塊の7箇所である。
気毒に関しての陰陽は、気虚塊を陰証、気塊を陽証とした。
血毒に関しての陰陽は、血虚塊を陰証、血塊を陽証とした。
また、臍に近い部分の血塊を上焦、股間に近い部分の血塊を下焦とし、真ん中部分の血塊を中焦とした。
水毒に関しては、痰塊にて判断した。痰塊の陰陽は、糸練功の補瀉にて決めた。

まず、験者の手掌の上焦部分に薬物を載せ(左写真。男性は左手掌、女性は右手掌)、甲把流腹診図で上記7部位の反応する箇所を調べ(右写真)、気血水と陰陽補瀉を決めた。

【結語】

結果を見ると、薬味の気血水配当が薬方の主な気血水配当を決めていると推測できる。これにより薬味の気血水配当が重要であることが理解できる。
気血水は、東洋医学の独自の概念であり東洋医学の特徴でもある。また病を考える上で病因となる重要な概念である。