漢方学会・研究会での発表論文

漢方太陽堂が、東洋医学関係の学会・研究会にて発表報告した論文です。ご覧下さい。
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【後縦靭帯骨化症・生体内環境】

2008年11月、伝統漢方研究会第5回全国大会(日本・二日市温泉大丸別荘)

木下文華
福岡県福岡市・日本

[諸言]

後縦靭帯骨化症の漢方治療において、出現するいくつかの証が茯苓飲加陳皮半夏によって改善していく例は、既に漢方太陽堂木下順一朗により報告されている。(広州中医薬院にて発表)

茯苓飲加陳皮半夏証は、骨化症に共通して窮仙穴の反応で確認出来る。窮仙穴の反応は、体質となっている生体内環境を捉える事が出来る。漢方治療を進めていく上で、骨化症に限らず、この生体内環境を改善することによって数箇所の証が改善した例を多数経験してきた。

茯苓飲加陳皮半夏は骨化本体の証である「桂枝一越婢二湯加朮湯証」や知覚神経障害の証である「半夏厚朴湯証」などを改善する。
しかし、桂枝加竜骨牡蠣湯証や桂枝加苓朮附湯証、桂枝二越婢一湯加苓朮附湯証などには効果がなく、それらに対しては各々の漢方薬を用いて対応していた。

今回、茯苓飲加陳皮半夏の陳皮を白芷へ切り替えることにより、更に効率良く改善した例がいくつかあったので、ここに報告する。

【例1】52歳男性、体重75kg、身長169cm

【主訴】後縦靭帯骨化症(頚椎3番損傷)
【既往症】アレルギー性結膜炎
【現病歴】3年前より、右腕に激痛が走る。ドクターより、頚椎の第3番目が損傷していると言われた。

【治療経過】
2008.1月
骨化症本体の証:臓腑病、膀胱、陽証、10合、±、桂枝一越婢二湯加朮湯Z
骨化周辺の骨の損傷:臓腑病、胃、陰証、10合、±、桂枝二越婢一湯加苓朮附湯
右腕のだるさ:経絡病、心、陽証、9.4合、±(1)、桂枝加竜骨牡蠣湯
血圧・頭痛:臓腑病、心、陽証、9.9合、+(1)、半夏白朮天麻湯加川芎白芷
窮仙穴の反応:臓腑病、脾、陰証、4.5合、2+、Z茯苓飲加陳皮半夏

骨化症本体の合数も10合になり、C接骨木葉製剤(MDR製)とBミネラル製剤(MDR製)により再発防止に対応していた。
今回、窮仙穴にて茯苓飲加陳皮半夏証を確認した。体質改善力も強まると思われたので、茯苓飲加陳皮半夏へ切り替えることとした。

この時点で、茯苓飲加陳皮半夏によって改善しうる証は骨化症本体の桂枝一越婢二湯加朮湯証であった。血圧にも対応出来るよう、茯苓飲加白芷半夏へ変更したところ、桂枝二越婢一湯加苓朮附湯証や桂枝加竜骨牡蠣湯証など、全ての証の改善が見込まれた。

2008.6月
骨化症本体の証:臓腑病、膀胱、陽証、10合、±、桂枝一越婢二湯加朮湯Z
骨化周辺の骨の損傷:臓腑病、胃、陰証、10合、±、桂枝二越婢一湯加苓朮附湯Z
右腕のだるさ:経絡病、心、陽証、10合、±、桂枝加竜骨牡蠣湯Z
血圧・頭痛:臓腑病、心、陽証、10合、±、半夏白朮天麻湯加川芎白芷
Z窮仙穴の反応:臓腑病、脾、陰証、6.9合、1+、Z茯苓飲加白芷半夏

薬方を変えてから、とても体調が良いそうである。合数も一気に10合へと駆け上がってきた。

【例2】59歳男性、体重90kg、身長185cm

【主訴】後縦靭帯骨化症。
【既往症】アレルギー性鼻炎。
【現病歴】長い時間立っていると右股関節が痛くおじぎがスムーズに出来なくなる。右手指に軽い痺れと、右足指や足裏に違和感がありとのこと。
【治療経過】

2008.2月
骨化症本体の証:臓腑病、膀胱、陽証、9.5合、+(2)、桂枝一越婢二湯加朮湯Z
右手親指の痺れ:臓腑病、胃、陰証、9.4合、+(2)、桂枝加苓朮附湯
ミネラルバランス:臓腑病、膀、陽証、7.6合、+(2)、桂枝加竜骨牡蠣湯
五志の憂:臓腑病、大腸、陽証、9.1合、+(1)、半夏厚朴湯Z
腰の状態:臓腑病、胃、陰証、9.4合、+(2)、桂枝二越婢一湯加苓朮附
窮仙穴の反応:臓腑病、脾、陰証、0.4合、4+、Z茯苓飲加陳皮半夏

窮仙穴にて茯苓飲加陳皮半夏証を確認した。以前より痺れは随分改善していたが、良くも悪くもない状態が続いていた。
茯苓飲加陳皮半夏へ切り替えて1ヶ月後、痺れの無い時が出てきたとのこと。首周りも以前よりスムーズになり調子も良くなったと喜んでおられた。

2008.6月
骨化症本体の証:臓腑病、膀胱、陽証、9.9合、±(1)、桂枝一越婢二湯加朮湯Z
右手親指の痺れ:臓腑病、胃、陰証、9.9合、+(1)、桂枝加苓朮附湯Z
ミネラルバランス:臓腑病、膀、陽証、8.7合、+(3)、桂枝加竜骨牡蠣湯Z
五志の憂:臓腑病、大腸、陽証、9.4合、+(2)、半夏厚朴湯Z
腰の状態:臓腑病、胃、陰証、9.8合、+(1)、桂枝二越婢一湯加苓朮附Z
窮仙穴の反応:臓腑病、脾、陰証、3.1合、1+、Z茯苓飲加白芷半夏

茯苓飲加白芷半夏へ薬方変更。全ての証の改善が期待出来た。その後も調子良く過ごしているご様子。

【例3】66歳女性、体重63kg、身長159.5cm

【主訴】後縦靭帯骨化症
【既往症】特になし
【現病歴】第4第5頚椎が狭くなっている。右後頭部から首に痺れがあるとのこと。医師から手術を勧められている。
【治療経過】
2007.12月
骨化症本体の証:臓腑病、膀胱、陽証、10合、±、桂枝一越婢二湯加朮湯Z
ミネラルバランス:臓腑病、膀胱、陽証、10合、±、桂枝加竜骨牡蠣湯
ミネラルバランス:臓腑病、大腸、陰証、9.9合、±(1)、半夏厚朴湯合茯苓飲Z
骨化周辺の骨の損傷:臓腑病、胃、陰証、10合、±、桂枝二越婢一湯加苓朮附
首筋の凝り:経絡病、膀胱、陽証、4.3合、1+、桂枝加竜骨牡蠣湯
腕が上がらない感じ:経絡病、大腸、陽証、4.5合、1+、半夏厚朴湯Z
窮仙穴の反応:臓腑病、肺、陰証、0.3合、3+、Z半夏厚朴湯合茯苓飲加陳皮半夏

調子の良い状態が続いているが、自己判断で代用として続けてきた健康食品は飲みたくないとのこと、自律神経の乱れによる半夏厚朴湯合茯苓飲証と桂枝加竜骨牡蠣湯証の経絡病も出現していた。
自律神経の乱れは症状の感じ方に強く影響する。これらの証の改善を優先し、加えて半夏厚朴湯合茯苓飲加陳皮半夏へと切り替えた。

2008.6月
骨化症本体の証:臓腑病、膀胱、陽証、10合、±、桂枝一越婢二湯加朮湯Z
ミネラルバランス:臓腑病、膀胱、陽証、10合、±、桂枝加竜骨牡蠣湯
ミネラルバランス:臓腑病、大腸、陰証、10合、±、半夏厚朴湯合茯苓飲Z
骨化周辺の骨の損傷:臓腑病、胃、陰証、10合、±、桂枝二越婢一湯加苓朮附
窮仙穴の反応:臓腑病、肺、陰証、6.8合、1+、Z1半夏厚朴湯
窮仙穴の反応:臓腑病、脾、陰証、5.3合、3+、Z2茯苓飲加白芷半夏

窮仙穴にて、半夏厚朴湯証と茯苓飲加白芷半夏証の2箇所の反応があった。半夏厚朴湯証は茯苓飲加白芷半夏によって改善していくと思われる。ミネラルバランスの桂枝加竜骨牡蠣湯証と半夏厚朴湯合茯苓飲証にも対応出来るので、茯苓飲加白芷半夏1種類のみで継続中。
特に気になる症状も無く、体調もすこぶる良い状態である。

【考察】

窮仙穴の反応は、体質の深い部分である。病態の元の生体内環境としてこの薬方を用いると、出現している証がいくつも改善されていくようである。
上に挙げた骨化症の例では、茯苓飲加白芷半夏によって全ての証の改善が見込まれる。「水は怪なり」と言われている。気血水の中で最も深く、原因のわからないものに対して水を動かす薬方を多く用いる。

茯苓飲の構成生薬は「茯苓、白朮、人参、生姜、橘皮、枳実」である。脾胃の気滞による上腹部膨満感や腹痛、脾胃の水毒による嘔吐や食欲不振などに効を発揮する。
半夏は上衝する胃内停水を捌き、去痰や嘔吐を止める働きがある。芳香性に富んでいる橘皮は体を温めながら中焦の気滞と水毒を取り去る。

同じく芳香性に富んでいる白芷は九竅を通じると言われ、上焦を温め発表し、気血を巡らす。また上焦に働く白芷によって、桂枝甘草の桂枝加竜骨牡蠣湯証も改善し、骨化症への漢方治療の簡素化が期待出来ると考えられる。

【今回使用した漢方薬】

茯苓飲加白芷半夏(茯苓5、白朮4、人参3、乾生姜1、橘皮3、枳實1.5、白芷2、半夏3)
茯苓飲加陳皮半夏(茯苓5、白朮4、人参3、乾生姜1、橘皮3、枳實1.5、陳皮1、半夏3)