漢方学会・研究会での発表論文

漢方太陽堂が、東洋医学関係の学会・研究会にて発表報告した論文です。ご覧下さい。
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【尋常性白斑】

2007年11月伝統漢方研究会第4回全国大会(日本・有馬向陽閣)

白井一矢
福岡県福岡市・日本

[諸言]

尋常性白斑(白なまず)は境界明瞭な白色の斑を特徴とし、この白斑がしばしば次第に拡大、増加、融合する後天性色素脱失症である。色素脱失斑をきたす疾患の中では最も頻度が高く、現在における西洋医学において、その発症原因・治療方法などが未だに解明・確立されていないのが現状である。

今回、尋常性白斑となっている患部の状態を西洋医学的見地から探り、今後、どの程度の改善が望めるかを糸練功(漢方太陽堂・木下順一朗開発。漢方の四診の一つの異形)で調べることによって決定できる可能性を見出したので報告する。

【病理・推察】

尋常性白斑は人の皮膚や頭髪などが白色に脱色している状態である。人体で産生される色素(メラニン※1)は紫外線や様々な炎症などにより色素細胞(メラノサイト※2)が活性化・増殖、次いでメラノサイト内のメラノソームが活性化することによってメラノソーム内でメラニンの産生が起こる。
その後メラニンを貯蔵したメラノソームは成熟し、樹枝状突起を伸ばしたメラノサイトによって隣接する基底層や有棘層下層の角化細胞(ケラチノサイト※3)に供与されます。このような流れを経て、視覚で確認できる色素の集まりができます。

※1:メラニン
人体で産生される色素。メラニン色素とも言われる。色素細胞(メラノサイト)内でアミノ酸の一種であるチロシンから酸化や重合といった反応(不可逆的反応)を経て黒褐色のメラニンとなる。
メラニンは紫外線などによる日焼けやDNA破壊などを防ぐ働きがある。メラニンの構造は大変複雑で、水や全ての有機溶媒に不溶で極めて安定である。

※2:色素細胞(メラノサイト)
元々、身体の中心部にある神経系の細胞で、胎児期に皮膚に移動してきたもの。表皮基底層に5~15%のメラノサイトが存在する。皮膚では毛根(毛母)にも分布している。
紫外線や様々な炎症などにより活性化・増殖してメラニン産生を促進する。(メラノサイトは未熟・成熟とあり、未熟状態ではその働きはしない。未熟メラノサイトは紫外線や様々な炎症によって成熟メラノサイトとなる)
メラノサイトの中にはメラノソームという脂質二重膜で囲まれた細胞内小器官があり、紫外線や様々な炎症などによりメラノソームを活性化・増殖し、メラノソーム内でメラニンの産生や貯蔵が行われる。メラノサイトは樹枝状突起を伸ばし、メラニンを貯蔵したメラノソームを隣接する基底層や有棘層下層の角化細胞(ケラチノサイト)に供与させる。

※3:角化細胞(ケラチノサイト)
表皮を構成する細胞の95%が表皮ケラチノサイトとなっている。表皮ケラチノサイトは表皮の最下層で分裂し、成熟するに伴い上方の層へ移行していく。
尋常性白斑の分類には定説はなく、局所型、分節型、汎発型に分ける分類やB型(皮膚分節に一致して出現するもの:分節型)とA型(B型以外のもの)に分ける分類、局所型と汎発型に分ける分類などがある。
発症頻度に男女差はないが、汎発型は全白斑の70~80%に対し分節型は20~30%の発症頻度という差は生じている。好発部位として特別な部位はないが、頻度としては顔面、頭部、体幹、項頸部が多いようである。
尋常性白斑の原因は確立しておらず、その説は様々である。その一部を下記にて紹介する。

1.自己免疫異常説…抗色素細胞抗体による色素細胞の破壊或は機能不全・不活化
2.神経系異常説…ストレスなどにより、主に自律神経系の異常をきたし、色素細胞の機能低下や感受性低下。その他末梢神経系の異常によるものもある。
3.色素細胞の自己破壊説…メラニン産生中間代謝産物による色素細胞の不活化や破壊
4.内分泌系異常説…ホルモン分泌異常(甲状腺機能亢進症など)の関与
いずれの説も間接的証拠しか発見されておらず、有力な説という段階で留まっているだけで、尋常性白斑の原因として確立されていないのが現状です。

ただし興味深いことに、共通して白斑となっている患部ではメラノサイトの減少・死滅、変異が確認されています。また白斑症状が改善する例があることから、このメラノサイトは成熟メラノサイトを指してしいるとこがわかります。

さらに、白斑部ではなんらかの原因によって成熟メラノサイトの減少・死滅、変異で機能停止・低下などを招き、次いで色素産生の停止や低下に至っている状態であると言えます。

これらを踏まえて、白斑部の成熟メラノサイト(変異なし)や今後成熟していく未熟メラノサイトの数を調べることによって、脱色した状態がどの程度改善するかという改善予測が分かるのではないかという推測が立てられます。

【対象と方法】

白斑症状をお持ちの方を対象に糸練功にて成熟メラノサイトと未熟メラノサイトの数が正常範囲であるかそうでないかを調べました。

①入江式腹診に影響のない(入江式色体に該当しない)紙を二種類用意し、そこに「成熟メラノサイト」、「未熟メラノサイト」を記載する。

②糸練功遠隔診の方法に従って、白斑の患者の直筆の文字を押える。その後①の紙を印堂に当てる。(「成熟メラノサイト」を記載した紙を例に挙げて説明する)

③まず白斑部ではないところ(正常部位)の合数を確認する。
※この場合、-1合付近のところにSTがあった。これは成熟メラノサイトを印堂より入れる事により正常以上の成熟メラノサイトを強制的に増加或いは過剰活性化することに相当し、異常状態を作り出したためと考えられる。

④「成熟メラノサイト」と記載した紙で実践した場合、実際に「成熟メラノサイト」の反応を追っているのか確認するために印堂に入れた紙を外してST(異常状態と思われる反応)が消失するか確認する。

⑤紙の色で反応している可能性を排除するために、もう一種類の色でも同様に①~④の順を追って実践する。

上記を実践した時、⑤を行った場合も同様な結果で、④の時にSTが消失したため、「成熟メラノサイト」の反応を追って確認している可能性が高いことが考えられた。
その後患部を同様の合数で確認した時、STが消失する例とSTは残るがSTの程度が和らいだ例と分かれた結果となった。これより、白斑部では成熟メラノサイトの数が減少・消滅或いは活性低下・不活化しているということが考えられた。
一方、「未熟メラノサイト」を記載した紙で実験した場合、患部ではST反応が不変或いはSTの程度が和らいだ結果となった。STの程度が和らいだ例についても、正常部位と比較すると大きな変化は認められず、例によってSTの度合いが異なるだけであった。

これにより、白斑部では未熟メラノサイト数の減少・消滅、活性低下・不活化は極僅かであると考えることができる。(今後メラニン産生に重要な成熟メラノサイトになるものなので、未熟メラノサイトも確認する必要性は大きい。)

興味深いことに、「成熟メラノサイト」で実験した場合、患部以外(白斑境界付近など)でも同様の結果となった例もあった。これは今後白斑部位の広がる可能性を示していると考えられる。

【考察】

先に挙げた尋常性白斑の原因となる各説を検討すると以下のことが考えられる。

1.自己免疫異常説…抗色素細胞抗体は発見されているがこれは間接的なものに過ぎず、色素抗体自体の存在は発見されていません。
また、実際に色素抗体ができているということであればその抗体が消失しない限り白斑症状の改善はほぼ皆無である。部位によっても異なるが、白斑症状の改善も見られることから、この説が原因とは考えにくい。

2.神経系異常説…自律神経系・末梢神経系の異常が全ての例に当てはまるわけではなく、さらに自律神経系の異常がある方に白斑症状が出現しているわけでもない。
ただ、漢方理論からするとストレスが溜まり肝による疎泄機能が低下することで肝血虚、次いで瘀血などを引き起こし脱色する可能性があることは考えられる。しかし、これも主な原因とは考えにくい。

3.色素細胞の自己破壊説…メラニン合成は不可逆かつ優位な反応なので、メラニン産生中間代謝産物がこの反応を止めるとは考えにくい。
また、このメラニン産生中間代謝産物によるメラノサイトの破壊・不活化が進むのであれば、白斑症状の有無に関らずシミなどもできにくいのではないだろうか。よってこの説も主な原因とは考えにくい。

4.内分泌系異常説…甲状腺機能亢進症などを合併している例もあるようですが、これも合併している例が多いということであって、必ずしも合併しているわけではないのでこれも主な原因とは考えにくい。
一方上記とは異なった視点から原因を探ってみる。

尋常性白斑の原因を甲把流腹診風毒診に着目して風毒説を検討してみる。
風毒とは東洋医学における甲把流腹診風毒診で反応があるもので、様々な細菌やウイルスによってこの反応は確認することができる。また今まで尋常性白斑がある例でも糸練功によって必ずこの風毒の反応を確認することができる。
これを踏まえて、なんらかの細菌やウイルスが紫外線や様々な炎症などによって活性化し、それらが成熟メラノサイトを特異的に破壊・不活化・貪食をするのであれば一定の範囲において成熟メラノサイトを貪食しつくすことが考えられる。その後他の範囲へと移動し、新たに移動した部位でも成熟メラノサイトを貪食するのではないだろうか。
これが正しければ一定範囲において成熟メラノサイトは存在しないが、未熟メラノサイトが消失しているわけではないので、その後その部位の症状が改善することや他の部位に症状が広がるのも納得できる。

また、この細菌やウイルスが紫外線や様々な炎症などによって活性化する仮定を踏まえた上で血液に入らずに表皮を好んで移動するならば、白斑部位がそのまま拡大したり不特定に白斑症状が出現したりすることもうなずけると考えられます。
これらのことなどにより尋常性白斑の原因が風毒であるとするこの説は遠いものではないと考えられる。しかしながらこの説も仮定に基づいたものであり、今後の検証や研究が絶対的に必要であることは否めない。
色素の根本となるメラニンは絶対的に成熟メラノサイトが関与し、メラノサイトは未熟から成熟となること初めてその働きをします。尋常性白斑は様々な原因があると考えられていますが、共通してメラノサイトの減少・死滅、などが確認されていること、糸練功による成熟・未熟メラノサイトの確認を行うことから、白斑症状の改善或いは広がりを予測できると考えることができます。
また、それを踏まえることで今までの治療法や今後発見される治療法などの正確性もある程度確認できると考えられる。

【結語】

先に述べたように、尋常性白斑は様々な原因があると考えられていますが、未だにその原因は確立していません。
故に仮説や仮定を多く挙げた内容となっていますが、新たな説となる風毒説を検証・研究していくと共に、今後改善していく上で必要となってくる部分に着目し、白斑部の成熟・未熟メラノサイトの数を調べることによって、脱色した状態がどの程度改善するかなどを把握することは非常に大切なことだと考えます。
今後はそれらを踏まえて、上記方法によるメラノサイト数の検証・確認をして、その後成熟メラノサイトの活性化及び未熟メラノサイトの成熟メラノサイトへの活性化なども兼ねた治療法を見つけ、尋常性白斑の改善に繋がるような研究・検証をしていく必要があると考えます。